どこに向けてオススメするかイマイチ掴めていませんが、
不思議な感覚のミステリに出会ったのでご紹介。
『暗闇・キッス・それだけで (2018)』森博嗣 著
(Only the Darkness or Her Kiss)
探偵の頚城はかつて出版したインタビュー本の成功を買われ、
アメリカの大富豪ウィリアム・ベックの取材と執筆を依頼された。
避暑地の別荘に1週間程度泊まり込みで取材を行う予定が、
当のウィリアムは急な仕事で東京におり翌日帰ってくるという。
別荘にいたのは妻サリィとゲストの北澤父娘、
ウィリアムの古い友人で医師のロジャと、
ウィリアムの息子アンディの恋人シャーロット、
そして複数の使用人たち。
アンディはその夜別荘に戻ってくる予定だという。
しかしその夜、ロジャが何者かに銃殺されているのが見つかる。
第一発見者は帰ってきたばかりのアンディと、
それを出迎えに行ったシャーロットの二人だった。
異国の地での殺人とあり、動機を持つ者は絞られる。
警察の捜査が進む中、頚城の目の前で第二の殺人が起きて・・・。
作中でやたらと重要“かもしれない”と言われていた部分が
ちょっとしか真相に関係していなかったり、
物凄く意味ありげな台詞が回収されることなく放置されていたりと、
「あれはどうなったの」という感じだったのですが、そういう作家さんらしいです。
『本人によれば、推理小説ではストーリーに意外性を持たせるために先のことを考えずに執筆し、だいたい5割ぐらいまで作品ができてきたところで初めて犯人を誰にするか考えるという。』
(Wikipediaより引用)
主人公も別に謎を解こうとしているわけでもなく。
(探偵業の依頼はされていないので)
もちろん犯人は特定されますが、
謎解きはこちらに考察の余地を残してくれています。
たぶんこういう理由でこういうトリックだったのかな?
みたいな。
そういう点では、トリックを楽しみにしている読者には
不完全燃焼に思えるかもしれません。
読んでいてもミステリを読んでいる感覚があんまりしないというか、
どういうジャンルの小説を読んでいるのかイマイチ掴めないままというか。
ともかく不思議な感覚の小説でした。
個人の感想を言えば、この主人公とは仲良くなれないだろうなと(笑)
今風に言えばやれやれ系で、優しさの見せ方が無意識に打算的。
プライドが高いくせに「自分は弱い駄目な男だ」という自己認識の下、
上手い思いをした時だけ自分を肯定する。
昭和の歌謡曲に描かれるようなステレオタイプの男性像な気がします。
ちなみにこの作品、続きものの二作目のようで、
知らずに読み始めましたが問題なく読めました。
多少登場人物が重なるようなので、
今度一作目も読んでみようと思います!