ある国では6月で授業が終わり、長い夏休みを経て新学年へと進む。
夏はそんな季節なんだそうです。
そんなこんなで、今回紹介するのは、
遠く九州から東京に上京したピチピチの一年生のお話。
『東京帝大叡古教授(2015)』
舞台は明治後期。
九州は熊本の名門、五校出身の青年は書生として、
同じ熊本出身の帝大教授「宇野辺叡古」の家に下宿することになる。
待ち合わせ場所の東京帝大の図書室に向かうと、
そこに待ち受けていたのは叡古教授の死体!?
…ではなく、別の帝大教授の死体だった。
それからというもの、七博士と呼ばれる権威たちが次々と殺害され、
主人公(叡古教授には阿蘇藤太と呼ばれる)は
叡古教授とともに事件に巻き込まれていく。
背景には多数の政治家、権力者が絡み、
日露戦争、日比谷焼打事件、そして第二次世界大戦にも
事件が影響を及ぼしていく。
この小説の面白いところは、実在した政治家や作家が
事件のキーパーソンとして登場するところ。
夏目漱石にいたっては容疑者として警察に追われることになります。
主人公の阿蘇藤太は、自身も名門の出身としていずれは官僚になることを目指して学び舎の門を叩きますが、一介の書生では出会うことのない偉人たちと交流し、刺激を受け、変化していきます。
藤太の本名は、終盤も終盤に明かされるため、
初回はただの歴史ミステリーとして読んでいました。
(というか藤太が本名じゃないことを忘れていたとかいないとか…)
なので、最後に阿蘇藤太の正体がわかると、
それまで読んできた内容がガラッと色を変えます。
何手も先を読む叡古教授に振り回されっぱなしだった藤太は、
何を思い、考え、どういう人物になったのか。
藤太に対する興味がぐんと湧いてしまいました。
「自分の頭で考えるために学ぶのだ」
戦争や政治、大きな変革の時代において、
潮流に流されず、蓄積した知識と卓越した発想で世の中を見ていた叡古教授の言葉。
時に暴走し、教授をも傷つけてしまった藤太は、
世界大戦の船上でこの言葉を思い出したのでしょうか。
ミステリーとしては、どんでん返しとまではいかないものの、
意外性のある真相が待っています。
しっかりとした読み手へのメッセージと
重すぎないミステリーに淡い青春、
読後感が爽やかな、夏に読むのにちょうどいい一冊でした。